『月光ゲーム-Yの悲劇’88』（有栖川有栖著）をご紹介します。
本書は物語の佳境から始まります。
すぐに没入感とシリアスが突撃してくるので、「暇だし少しだけ読み始めよう」と思ってはいけません。
「少し」どころじゃない時間が過ぎていきますので、ご注意を。
ミステリー度 [star rate=”5″ max=”5″ number=”1″]
異 質 具 合 [star rate=”5″ max=”5″ number=”1″]
文章の美しさ [star rate=”5″ max=”5″ number=”1″]
総 合 評 価 [star rate=”5″ max=”5″ number=”1″]
あらすじ
英都大学への進学を機に、推理小説研究会へ入部した主人公・有栖川有栖（アリス）は、部長の江神ら4人と夏合宿へおもむく。
キャンプ地である矢吹山にて、偶然にも他大学の3グループと合宿を行うことになった推理小説研究会だが、事態は思いもよらぬ方向へと進み始める。
——行方不明者、噴火、そんな極限状態の中で起こる殺人事件。
逃げ場のない状況で、アリスたちの運命はいったいどこへ向かうのか。
こんな人にオススメ！
本格推理小説が読みたい人
伏線が見事に回収されていきます。
さながら、その場で聴講しているかのように、謎が解き明かされていく模様は圧巻です。
「読書が好きな」学生
登場人物が全員学生のため、親近感が湧いて読みやすいと思います。しかし、難しい単語が散見されるので、中学生や、あまり本に触れていない学生が読むには時間がかかりそうです。
感想（ネタバレなし）
緊迫感あるプロローグ
灰色の空の下、アリスたちが活火山の中腹で右往左往する様子から、物語は始まります。
噴火する火山やそれに対する各人の行動、会話が緊迫した状況を浮かび上がらせ、読者を物語へ引き摺り込みます。
そんな中、揺れる人たちを見た江神が「ディスコ・山吹山」と軽妙に表したり、漫才のような会話をするコンビがいたりと、緩急は抜群です。
散りばめられた証拠
謎解きフェーズでは、今までの謎が当然に解かれていきます。
しかし驚くべきは、公然と「これが疑問である」となっていないような出来事も、解決の糸口につながっていることです。
遡ってよくよく読んでみると、しっかりと言及されています。つまり、読者が登場人物のように、事件に挑むことができるのです。
私も一度推理してみましたが、まるで歯が立ちませんでした（笑）。
シリアスな中に笑いあり
どんな物語も、それが結末に向けて直線的だと面白くありません。
本書はいろんな意味で紆余曲折します。もちろん、物語の筋道は大きな一本道です。
ただ、殺人が起きた後の推理中や疑心暗鬼でギクシャクしている雰囲気に、ふと新しい風が吹くように、小洒落た笑いが入り込むのです。
前のめりで読み進める読者に、ひと呼吸おかせる息な計らいが、本書というより、有栖川有栖さんの世界の魅力だと感じました。
おわりに
「おすすめの本を教えて」と言われれば、即座に本書を手渡します。迷いなく。
ミステリーの巧みさ、スリリングな情景描写、そして痛快な会話。
読書中に、飽きや疲れなど感じさせない本書は、間違いなく、あなたのお気に入りの本棚に並ぶことでしょう。
