“美食”を追求したサヴァラン先生の名著
『美味礼賛』はどんな本?
『美味礼讃』は“食”と“味わい”について哲学的かつ科学的に考察した名著です。
フランスの美食家ブリア=サヴァランによって記され、日常の食卓を豊かに味わうヒントが随筆形式でまとめられています。
- 味覚・嗅覚などを活かした食の楽しみ方
- 食べることは生きること。それは「個」と「種」の存続に繋がる
- 食材を美味しく調理する方法
サヴァラン先生の文章には難解な部分が多くあります。
ですが、随所に挟まる玉村豊男さんの丁寧な解説によって、抵抗なく理解できます。
著者:ブリア=サヴァランとは?
料理人ではないが、美食へのこだわりが強い人
彼自身は料理家ではありませんでしたが、料理に対する気構えが凄まじい方です。
様々な宴席に呼ばれて美食を堪能し、また、彼自身も友人たちを呼んで料理を振る舞いました。
自他共に認める美食家で、調理器具を自作するなど食事に対して並々ならぬこだわりがある方です。
また、彼は「5つの言語を習得」していました。
『美味礼讃』の原書では、彼の母国語であるフランス語はもちろん、スペイン語やラテン語を用いて書かれています。

なんで複数の言語を使ったの?



フランスは語彙に貧弱だから……
大胆ですが、美味学を正確に伝える信念が感じられますね。
サヴァラン先生が提唱する「美味学」とは?
美味学とは、ものを食べる存在である人間に関わるあらゆる知識を、体系的に理論づけたものである。
(原文ママ)
つまり、生命活動そのものともいえる食事を、さらに享受するための学問です。
『美味礼讃』では“調理”と“喫食”両面から、“生”を味わう学問として「美味学」が論じられます。
おすすめポイント3選
1 食の楽しみ方が広がる
サヴァラン先生は味覚に対して深く追求し、解説しました。
- 味は、食物が唾液の作用などで液状化し、味覚器官に吸収されることによって感じられる
- 舌だけでなく頬、口蓋(口内の上の部分)でも味わえる
- 嗅覚は、味覚に不可欠な「補助感覚」でもある



頬や口蓋?味は舌だけで感じるんじゃないの!?



私もそう思ってました!
- 日本人は歯ごたえを大事にし、フランス人はくちどけを重視する
- 日本語なら「舌を悦ばす」と表現するところを、フランス語では「硬口蓋を悦ばす」と表す
食の楽しみ方における文化の違いで、味覚を意識する部分に差異が生まれたようです。
※実際は舌のほうが硬口蓋よりも味蕾(味を感じる小さな器官)が多いため、やはり、味の大部分は舌で感じます。
しかし、硬口蓋にも味蕾はあるので、意識してみると、口内の上の部分でも味を感じられます。これらを知った上で食事をすると、これまで気づかなかった“味わい”を再発見できるはずです。
2 サヴァラン先生の箴言が刺さる
『美味礼讃』は名言の宝庫でもあります。
- 「チーズのないデザートは、片目の美女である」
- 「禽獣は食らい、人間は食べる。知性ある人間だけがその食べ方を知る」
前者の言葉では、フランスの食文化におけるチーズの重要性がわかりますね。
後者は、人間ならではの“調理”に加えて、食事のマナーや振る舞いの大切さも示しています。
- 食べ方が汚い
- 咀嚼音がする
- 会食の時間に遅れてくる
「誰かと気持ちよく食卓を囲む」こともまた、美味学の一部であるというのがサヴァラン先生の考え方です。
私は以前外国人の友人と食事をした時に、「咀嚼音に気をつけて」と伝えたことがあります。
各国で食文化は違いますが、会食者全員で料理を美味しく味わうためにも、マナーに気をつけないといけませんね。
編訳・解説の玉村さんが面白い!
本書の編訳・解説をした玉村さんですが、彼自身も高名なお方です。
エッセイストでありつつ画家でもある。さらにワイナリーを営んでいるという多才な人物。
また、フランス文化に造詣が深く、丁寧な補足解説に加え、ユーモアを交えた“ツッコミ”が読者を飽きさせません。
後半になるにつれてキレが増すその語り口は、まるでサヴァラン先生との対話を覗いているかのような楽しさがあります。
おわりに
『美味礼讃』には、生きるうえで切っても離せない“食”を楽しむための方法が数多く書かれています。
「“肉食”と“魚食”の違い」や「“食”と“恋愛”の関係性」など奇抜な着眼点も満載で、
どんな方でも一見の価値があります。
家族や友人との食事をもっと素敵な時間にするために、ぜひ読んでみてください。
※なお、本書の読み方や受け取り方については、私なりの解釈も含まれております。ご理解いただければ幸いです。


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