
「静かな夜に、少しだけ本を読みたい」
そんな方におすすめなのが、『営繕かるかや怪異譚』です。
(営繕:建築物を新築または修繕すること)
小野不由美先生が描く、静かで不思議な文体は寝る前にぴったり。重厚な古き良き家屋たちの描写は、心穏やかにさせてくれます。
1話完結の短編集ですので、1話ずつ読んで“夜の楽しみ”にするのもおすすめです。
ただ、少し怖いお話もあるので、お手洗いに行きにくくなる方もいるかもしれません。
あらすじ
古い家には記憶が詰まっている。子供の身長を記した柱のキズだったり、代々受け継がれるモノだったり……。だが、記憶は必ずしもあたたかい思い出ばかりとは限らない。
家族を蔑ろにした人もいれば、家で寂しく息を引き取った人もいるのだから……。
古屋に引っ越した人々は、古い家の“記憶”に翻弄されながらも、家族や家を大切に考えて日々を生きていく。
そして、そんな彼らの前に現れるのが、人と怪異の折り合いをつける「営繕屋」・尾端。
人間と怪異の間を丁寧に繕う彼の営繕が、人・家・怪異を包み込んでいく——。
感想
静かで力強い描写
本作の著者の文体は、まるで夜の静寂そのもの。
薄闇を照らす月明かりのように、物語の怪奇が少しずつ明るみに出ていく。その怪奇に人物たちは苦悩します。
「独りでに開く襖」、「聞こえるはずのない音」、「見えるはずのない“何か”」。
怪奇現象は静かに、しかし確実に影を濃くしていく——。
そして、本作はただ不気味なだけのお話ではありません。
怪奇のせいで家族と溝ができてしまったり、見えないモノが見える自分への恐怖……。怪奇現象とその解決を淡々と書くのではなく、それに関わる人たちの機微も描かれており、思わず感情移入してしまいます。
営繕屋・尾端という存在
本作の物語の根幹は怪奇現象と古屋、そしてそこに住まう人間。
古屋を壊して建て替えるだけで終わり、という単純な問題ではないのです。
- 継いだ家を壊したくない
- 金銭的に建て替えられない
- 建て替えても怪奇現象が収まらない
尾端は、そんな住人や怪異との関係を丁寧に見極め、相容れないはずの2つの事柄を繋ぎ合わせます。
退治などではない新しい解決方法が、読語感にじんわりとした温かさを残します。
おわりに
『営繕かるかや怪異譚』は短編ホラーではありますが、人間ドラマもブレンドされたエモーショナルな作品です。
夜の読書にぴったりの落ち着いた雰囲気で、あなたを良質な睡眠へと誘ってくれることでしょう。
また、小野不由美先生の作品はどれも綺麗な情景描写と迫る恐怖が魅力です。
心情・情景・ストーリー……。著者の描写力に圧巻されること間違いありません!
まとまった時間で、長編を読みたいという方には『黒祠の島』や『十二国記』シリーズもおすすめですよ。
ぜひ、小野不由美先生の重厚な世界観に浸ってください!
ミステリー度
異 質 具 合
文章の美しさ
総 合 評 価
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