『一次元の挿し木』(松下龍之介著)感想レビュー|繊細な心情表現に脱帽(ネタバレなし)

このミステリーがすごい!

「このミステリーがすごい!」大賞<文庫グランプリ>受賞作

一次元の挿し木 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
松下 龍之介 | 2025年02月05日頃発売 | 2025年第23回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作「謎の牽引力、ストーリーの面白さは、今回これがダントツ」大森 望(翻訳家・書評家)「古人骨のDNA鑑定が暴く驚くべき...

『一次元の挿し木』をあなたが購入を検討しているのなら、私は自信を持って背中を押します!

物語の核となるのは、失踪した妹と200年前の人骨に残されたDNAが一致するという謎。
最初に提起されるこの謎が、読者の心を掴んで話しません。

ですが、それ以上におすすめしたい点は「心情・情景描写の豊かな筆致」です。
著者は本作がデビュー作とのことですが、ベテラン作家の作品かと見紛うほどでした。

おすすめポイント

伏線回収が丁寧で美しい

物語の終盤に向かって、点と点がきれいにつながっていく感覚。
読み終えたとき、すべての描写に意味があったと気づかされます。

人物の感情がリアルに伝わる

「悲しい」「怖い」といった単語に頼らず、比喩や息遣いなどの表現で感情が鮮明に伝わります。
特に、主人公・悠が妹を想うシーンは、情熱的かつ痛切で胸に迫ります

軽やかな会話に救われる

軽妙な会話が物語の緊張を和らげる良いスパイスになっています。
ですが、同時に「ややラノベ調なやりとり」なため、苦手な方には引っかかるかもしれません。

あらすじ

大学院で遺伝人類学を学ぶ主人公・七瀬悠。彼の妹は4年前に失踪しており、失意の日々を送っていた。
そんなある日、ヒマラヤ山中で発掘された人骨のDNA鑑定を依頼される。200年前の古人骨を解析した結果、なんと、妹のDNAと完全に一致したのだ。
発掘に関わった人物たちが次々に襲われる中、悠は真実を求めて動き出す。

妹の謎の失踪。その妹と古人骨のDNAの完全一致。闇に葬られていく古人骨の謎。
その背景には、予想もつかない大きな陰謀があった——。

感想

少しずつ真相に迫る感じがたまらない!

プロローグとして、物語はヒマラヤ山中の“ループクンド湖”から始まります。
「地獄の跡地」や「呪い」……そんな不穏な雰囲気に、読書はすぐに引き込まれます。

そして、「古人骨と妹のDNAの謎」や次々に襲われる発掘の関係者たち。
怒涛に押し寄せる展開に読むスピードが下がることはありません。

先に申し上げておくと、この物語の本質は不可思議な超常現象ではありません。
全ての謎は「論理的に」抜かりなく回収されるので、ご安心を。

圧巻の表現力

4年前に失踪した妹の生存を信じつつも、悲嘆にくれる主人公・悠。その複雑な感情が鮮烈に描かれます。
特に46、47ページの表現は儚くも、美しさすらもありました。

そのページだけ何度も読み返すほどの描写
あなたにもぜひ読んでいただき、著者の表現力に圧倒されていただきたい。

賢人たちの言葉を借りつつも、言葉に信念があるキャラクター・唯

物語の前半から登場する、悠の相棒・石見崎唯。
聡明でユーモアある彼女は、しばしば偉人たちの名言を引用します。
悠を励ますための引用の数々は、彼女の明晰さと茶目っ気ある性格をうまく表し、非常に好感が持てます。

ミステリアスで魅力的な彼女が物語の良いアクセント。
陰鬱になりそうな“死”を記述する場面も柔らかいものになります。

ですが、この唯こそが本作を若干ラノベのような軽快さにする所以です。
悠との軽妙なやりとりは面白くもあり、どこかむず痒くなります。

おわりに

『一次元の挿し木』は、静かなトーンで進みながら、読み終える頃には深い余韻を残してくれる物語です。

ちなみに本作は「大賞」ではなく「文庫グランプリ」受賞作。
ですが、巻末の解説でも「大賞と僅差」と記されており、実質的なトップ評価を得た作品です。
あなたの心を静かに震わせてくれる、そんな一冊になるかもしれません。

それほどまでに面白い本作をぜひとも手に取ってみてください!

ミステリー度   4.0
没 入 感    5.0
キャラの魅力   4.0
総 合 評 価  4.0

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