【長編本格推理小説】黒祠の島(小野不由美著)-島の異質な因習に隠された謎(ネタバレあり)

ミステリー小説
Amazon.co.jp

今回は、『黒祠の島』(小野不由美著)の感想を
ネタバレありでお話しします。

私は数ある小説の中でも、小野不由美さんが描く世界が
一番好きです。
『屍鬼』『十二国記』『営繕かるかや怪異譚』など、
著者の重厚な世界観やその語り方が、私を魅了して止みません。

本書も期待を裏切らない、大満足な作品でした。

あらすじ

作家やライターの取材を補助する調査事務所を営んでいた主人公、式部剛 しきぶ たける
ある日、懇意にしていた作家、葛木志保が事務所へ訪ねてきた。彼女は「3日で戻る」と言い残し、行方不明になってしまう。

「葛木は捜して欲しいのだ」と感じた式部は、残されたわずかな手がかりをもとに、彼女の故郷である「夜叉島」にたどり着く。

夜叉島には怪しい慣習があり、偏屈と称される島民たちが暮らしていた。
島民たちが隠すものとは一体何なのか。
そして、葛城はどこへ消えてしまったのか——。

感想

以下、ネタバレありの感想ですので、ご注意ください。

登場人物の個性が光る

物語は、以下の3者によって展開します。

  • 主人公(式部剛)
  • 島民(相棒的存在の泰田含む)
  • 物語の最奥(神領家)

そんな本書ですが、私が気になった人物は、
「葛木志保」と「神領浅緋」の2人です。

この2人、特に葛木は、まったくと言って良いほど登場しませんが、
とても魅力的に描かれて、いや、表現されています。

・葛木志保
本書のマクガフィン的存在である彼女は、
合計で5ページ程しか登場しません。
しかし、とても存在感がありました。
理由を考えたところ、
式部の「彼女を捜索している時の心情描写」
が細かく表されているからだと気づきました。

式部は、当初、葛木の「死」を
信じてはいませんでした。

「……死因は」
式部が問うと、泰田は首を横に振った。
(中略)
「葛木は」と言いたかったが、それを言葉にすることを身体が拒んだ。

『黒祠の島』—小野不由美著

信じていない、というより、
認めたくないような雰囲気もありますが、
式部は彼女を捜し続けます。
中途では、彼女の「死」を認識しつつも、
諦観を犯人を追う気持ちへ昇華。

そんな、揺れ動く式部の心情に当てられて、
葛木志保は「登場しないが存在している」
と印象付けられたのだと思います。

神領じんりょう浅緋あさひ
弱冠15歳にとは思えない威厳を知性を備える彼女。
しかし、その正体は、「悪鬼羅刹」「快楽殺人鬼」
である解豸かいちでした。
「殺人は犯してはならない」
と理解しつつも、犯人を断罪する姿は、
ある種、少年漫画のような
ヒロイックな面もあると感じました。

また、「罪と罰」、「情状酌量」の関係性に対しての疑問を
式部へ呈することで、彼の心を大きく揺さぶると同時に、
読者にも考えさせることで
さらに、キャラクターの魅力が増しました。

余談ですが、『屍鬼』の「沙子」と仲良くなりそうですね。

罪と罰

本書では、以下のような問いが読者に投げかけられます。
・罪は、境遇によって「酌量」されるべきか
・残酷な罪には残酷な罰で贖うべきなのか
・罰を与えた者もまた裁かれるべきなのか

犯人の「不遇」は、同情に値すると思いますが、
その後の行いはどうでしょう。
嗜虐とも言える方法で、4人を殺害しました。

そして、浅緋はその犯人を「私刑」に処しました。
この「残虐犯への断罪」を執行した浅緋は、
同様な罪に問われるべきなのでしょうか。

殺人は許されざる行為であり、酌量の余地は基本的にない
と私は思います。
ですが、浅緋のような「律されている殺人」は
罪に問われこそすれ、酌量しても良いと思いました。
なぜなら、浅緋はいたずらに被害者を出すのではなく、
断罪人として、「法律」として存在していると言えるからです。

倫理観は人それぞれであるからこそ、
許容範囲などが千差万別です。
皆さんは、どう考えますか?

おわりに

本書は情景描写も綺麗で、
島という閉鎖空間の異様な雰囲気も漂い
非常に楽しめました。
また、罪と罰という哲学も混じり、
読後も考えさせられる独特な内容で
面白かったです。

最後にひとこと。
ビールの描写が頻繁に出てきましたが、
小野不由美さんはビールが好きなのでしょうか。
私は大好きです(笑)

色んな意味で疑問が残る本書でした。

タイトルとURLをコピーしました