【絶海の孤島×本格推理!】『孤島パズル』(有栖川有栖著)(ネタバレなし)

おすすめ
孤島パズル (創元推理文庫)
有栖川有栖 | 1996年08月発売

『孤島パズル』は「江神シリーズ」の2作目にあたる作品です。
ですが、前作『月光ゲーム-Yの悲劇’88』を読んでいない方も十分楽しめます!

クローズドサークル、密室殺人事件、宝の地図と興味がそそられる要素が詰め込まれた物語に、惹かれない方はいないでしょう。
また、有栖川有栖さん特有のウィットに富んだ会話も楽しませてくれます。

ミステリー度 4.0
ウィット   4.0
文章の美しさ 4.0
総 合 評 価  4.0

あらすじ

英都大学推理研究会に紅一点の新たな風が吹く。彼女の名前はマリア(有馬麻里亜)。
マリアの誘いで、南の島へ「謎解きバカンス」に向かうアリスと江神部長は、そこで殺人事件と遭遇してしまう。

バカンスから一転、南の島は、無線機が破壊され連絡船も来ない“絶海の孤島”と化してしまう。
はたして、推理研の面々は連続殺人から逃れられるのか。事件を解決できるのか——。

こんな人にオススメ!

本格推理小説が読みたい人

本作の終盤、江神部長の推理披露前には、犯人を特定する材料が揃った旨が通告されます。
全ての伏線を読み解けば、読者が合理的に「犯人を示せる」という点も本作の魅力です。

また、通告される際の「小宇宙に秩序をもたらしていただきたい」との文章がなんともかっこよく、推理に興じさせてくれます。

感想(ネタバレなし)

クローズドサークルと謎解き!

本格推理といえば、クローズドサークルだと思うのは私だけではないはず。
猛吹雪の中の山荘や豪華客船など、外界と断絶された場所で難事件に挑む探偵たちにハラハラする、あの感じがたまりませんよね。

本作の舞台は“絶海の孤島”です。連絡船は5日後に来る予定となっており、就航を早めようにも無線は破壊されていて、助けを呼ぶ手段が一切ないという状況。
殺人犯人が潜む中、謎解きや推理に向き合う状況は緊張感があり、読みごたえがあります。

また、謎解きには宝の地図が関係してくるのですが、地図を読者にも提示してくれるので、視覚的にも楽しませてくれます。地図が宝の在処をどのように指し示すのか、アリスたちと一緒に頭を悩ませるのもまた一興です。

物語の終盤には《読者への挑戦》と題して、読者も「犯人が誰なのか」という推理に挑むことができます。前作同様、私も一度推理してみましたが、やはり全くわかりませんでした。
(謎解きの方は、惜しいところまで行ったんですけどね……。)

シリアスな中に笑いあり

有栖川有栖さんの作品に特徴的なのが、「殺人事件」という暗い物語の中に、ウィットに富んだ笑いが多く含まれていることです。今回も、合間合間に挟まれる小気味良いジョークにより、推理以外の部分も楽しむことができます。

ただ、前回よりは笑い部分が少なめかな、と思います。
信長さんやモチさんが島へ同行していないからですかね。私、あの2人の会話好きなもので、本作はその点が少し物足りないです(笑)

また、アリスがままデリカシーのない発言をします。1980年代の作品であり、今とはいろいろ違うので仕方がありませんが、時代を感じますね。

おわりに

推理の定番フルコースを盛り込んだ本作は、どんな方でも楽しめる逸品です。
クローズドサークル、密室殺人事件、宝の地図と聞いてワクワクしない方はいないのではないでしょうか。

また、文庫版の解説・光原百合さんは、「名探偵はなぜ、『名探偵』であるのでしょう?」と疑問を呈します。
探偵自らの倫理観に従った行動なのか、謎を解くことこそが“至福”なのか。
江神さんが名探偵たる所以は「犯人を指摘することで、居合わせた人たちの(殺人犯人に追われる)恐怖の呪縛を解く」ためなのでは、と指摘しています。呪縛を解くためとはいえ、犯人が罪を犯すに至った背景を気にかける様は、名探偵というより、江神部長らしさがあってとても好感が持てます。

(『禁忌の子』(山口未桜著)の探偵役・城崎響介とは対照的かもしれませんね。)

名探偵にも種類がある、という視点は目から鱗だったので、解説まで楽しむことができました。

長くなりましたが、本作はどなたにもおすすめできる作品です!
手に取った際は、ぜひ、解説まで目を通してみてください。

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