
今回は、『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦著)ご紹介します。
本書は、ユーモラスで個性的な登場人物たちが織りなす物語。読んでいる間、ずっと微笑んでしまうような楽しさがありました。
特に文章表現が奇抜です!今まで目にしたことがない言葉選びの数々が、著者の世界を余すことなく浮かび上がらせて、私たちを物語の世界へ没入させてくれます。
ミステリー度
意 外 性
文章の美しさ
総 合 評 価
こんな人にオススメ!
テンポ良い小説が読みたい人
本書はリズミカルな文章が特徴。言葉遊びが巧みで、今までにない独特な言葉のリズムに、すぐに虜になってしまいます。
四字熟語が渋滞する瞬間もありますが、それが独特のリズムを生み出し、読者を物語の世界へと引き込んでいきます。
コテコテな恋愛物語は「苦手」な人
本書はジャンル分けすると「恋愛小説」になります。もちろん「先輩」の恋模様が題材ではありますが、読んでいるコッチが恥ずかしくなるような文章や歯が浮くようなセリフもありません。
それゆえ、甘さ控えめの恋愛が好きな人にはぴったり。
あらすじ
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、彼女との関係を外堀から埋めるべく、さまざまな場所で‘‘偶然の出会い’’を演出してお近づきになろうとする。むなしくも、「黒髪の乙女」は策略に気づくことなく、珍事件の数々を、彼女を取り巻く曲者たちとともに闊歩していく。
そんな彼女らに「先輩」は日夜ふりまわされるが、少しずつ、ほんの少しずつ「黒髪の乙女」と距離を縮めていく。
感想(ネタバレなし)
重厚かつコミカルな文章
本書の魅力は、何といってもその独特な文章表現にあります。
これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々歩き抜いた記録であり、また、ついに主役の座を手にできずに路傍の石ころに甘んじた私の苦渋の記録でもある。
(森見登美彦著『夜は短し歩けよ乙女』より)
まるで文豪のような重厚な語り口が、本書を類をみない物語にしています。それでいて、堅苦しさはなく、むしろユーモラスな表現が多いため、ページを捲る手が止まることはありません。
本書には「杏仁豆腐の味にも似た妙味」という表現が出てきますが、森見登美彦さんの文章そのものが、まさにその「妙味」だと味わえます。
数々の不思議なできごと
日常にありそうで、決して出会えない珍事件が次々と起こります。
夜の町でお酒の飲み比べ勝負をしたり、古本市で神様(?)のような少年と出会ったり、学園祭でゲリラで演劇をしたり……。
数奇な運命が「先輩」と「黒髪の乙女」の運命を隔てたり近づけたりしていきます。
絶妙に上手くいかない恋路は読んでいて不憫になりますが、それがより一層物語に独特な味わいを与えます。
おわりに
とにもかくにも、独特な作品です。
文章表現しかり、奇想天外なストーリーしかり。「?」が出る方が多いと思いますが、それゆえに、ハマる人にはハマります!
私は非常に楽しめました。読書中、思わずニヤついていたようで、妻に「何ニヤついているの」とツッコまれてしまいました。
読む際は、みなさんどうかお気をつけて。